銀杏売り



 この頃、街ン中は赤と緑と白と銀の、いわゆるクリスマスカラーというやつ。
 まだ11月だってば。 聖夜にはひと月以上あるってば。


 時刻は17時。 空はもう暗くて、街路樹は電球でライトアップされて、さらにその向こうに見える遊園地のイルミネーションとも相まって、なんともろまんちっくな空間を演出しております。 えーカップルにはなんとも素敵ななひと時が過ごせますねーと。
 そんな風景を、動く歩道の手すりに寄りかかりながらぼんやりと見つめる。
 動く歩道って動いているからって普通は立ち止まらないのであって、立ち止まるのはご老人か団体さんかカップルなんてなもんなんだけど、なんかあくせくするのもイヤなんで、歩くのをやめてみたのだった。
 カップルへのやっかみはさておき、まあ、こうのんびりしてみるのも嫌いじゃない。


 動く歩道の両脇は、普通の歩行エリアになっているのだけれど。
 そこに、何かみかん箱のようなものを置いて、オジサンぽい人が二人、立っている。
 歩道は約3km/hの速度で動き、だんだんその「箱」に近づいてきて
 よく見ると「箱」は牛乳屋の脇に積んであるような、牛乳瓶のケースを2個積んだもの。 その上にこれはなんだろう、ベーカリーでパンを取るときに使うようなトレーのようなものが乗って。 ケースもトレイもあまりきれいとは言えなくて、なんか雨ざらしだったんじゃないの?という風合いで。
 その上にビニール袋がいくつか置いてある。 脇にボール紙。


 「ぎんなん 300えん」


 たしかこの近くに公園がある。
 そしてその近くには地下道があり、まあ要するに、路上生活者がたむろしやすい環境なのですね。
 で、公園には銀杏並木。
 ああそうか。 そういえば何日か前、すごい風が吹いていたっけ。


 オジサン二人は通行人と目を合わせるでもなくというか、どこを見ているのかわからない感じで、売らんかなというそぶりも無く、ただ立っている。
 その前を私は、約3km/hの速度で、「ぎんなん」を正面に見ながら通過した。
 うん・・・売れないよそりゃ。
 風景に合わな過ぎるもの。 オサレなカップルはこれからレストランでも行くんだよ。 ビンボーカップルでもマクドナルドとかだよ。 「ぎんなん」はチョイスしないよ。
 もっとも、オジサンたちも売れるとは思ってないのかもしれないな。 そんな表情だった。 何かの間違いで1・2袋売れれば儲けもの、みたいな。


 駅に着いて、改札を抜けた。
 思ったのは、銀杏、あの袋の大きさであの価格だったら実はかなりお値打ちだよなあということだった。
 これから寒くなるのだろうけど。 だから私が何かするかというと、別に普段と変わらない生活をするだけなんだけど。


 駅構内の広告には、デパートのクリスマスイベントの告知があった。 まだ早いよ煽りすぎだよ、とか言ってるうちに、年末がやってくるんだろうな、雪なんかも降るのかな、とか思った。